「――奈々は……」
駅を出ると、ずっと黙っていた透が足を止めて口を開く。
「翔太が嫌いなの?」
悲しそうに眉を下げて見つめてくる透に、思わず目を逸らしたくなった。
純粋すぎる、裏表のない透。素直で愛嬌があって、色々と鈍いくせに、どこか人の気持ちの変化に敏感なのよね。
私にはない、透だけの魅力。
「好きとか嫌いとか、興味ないわ」
「じゃあ好きか嫌いかって言ったらどっち?」
「考えたことないわよ」
「考えてよっ」
突き放しても突き放してもまた向かってくる透は、以前にも見た記憶があった。
……なんて、忘れたふりをしたって鮮明に覚えているんだけれど。それが何より、厄介。
「透は私と翔太にどうなってほしいの? 付き合ってほしいの?」
肩にかけてるカバンをかけ直しながら聞いても、透は相変わらず眉を下げたまま。
駅前は待ち合わせしてる人や迎えを待ってる学生で人々が溢れている。
その中であたしと透はただ立ち話をしている女子高生にしか見えていないんだろう。
間違いではないけれど、いつもと違うのは透の方。私じゃない。
「……あたしは、奈々の気持ちが知りたいんだよ」
こういう時、私は自分をひどく冷たい人間だと思う。
真っ先に、知ってどうするのかしら、と思うから。
「興味ないわ。翔太にも、翔太との恋愛にも。どちらも私には必要ないものよ」
「……っ」
「透に指図される覚えもないわね」
何か言おうとした透を遮って追い討ちをかけると、俯いて黙ってしまった。
「じゃあね。また明日」
透を置いて、自宅に足を進める。
泣いてしまうかしら。
酷いことを言って、また明日なんて言って。
明日、透が笑いかけてくれるかも分からないのに。



