「その頭は、無理だって何回言えば理解するのかしら」
「せやかて、稽古? 8時までらしいやんか。俺らのチームは9時から。来れへんこともないやろ?」
「――……透?」
ビクッと体を揺らして、にっこり笑い呼び掛けた私を一切見ようとしない透。
翔太に余計なこと言うなって、言ったわよねぇ……?
恐ろしいといわんばかりにガクガク震える透が何を考えているかなんて分かっているけど。
溜め息をついてホットコーヒーを口に含む私には、何もかも苦すぎるくらいがちょうどいい。
……行きたくないのよ。ダンスに興味もないし。
「確かに稽古が終わる時間は8時よ。基本的にはね」
「……基本的にって何やねん」
「基本は基本でしょ。その日によって遅くなったりもするのよ。8時に終わるとは言い切れないわ」
大体、8時ちょうどに終わったことなんてほとんどないんだから。
「お待たせしました」
さっきとは別の女性スタッフがストレートティーとアメリカンコーヒーをテーブルまで運んできた。
「おおきに! コーヒーは俺ちゃうで。そっちの王子や」
女性スタッフは「失礼しましたっ」と慌てながらも少し頬を染めて昴の前にコーヒーを置く。
翔太は馴れ馴れしいはずなのに、むしろ嬉しそうにも見えた。
まぁ、翔太も昴と一緒に騒がれる程度には格好いいものね……。
私からすれば翔太が格好いいか格好悪かろうが、どうでもいいけれど。



