「…………」
「どうぞ、透ちゃん」
ちぃ君は助手席のドアを開けて、あたしを見てる。
あたしは眼鏡を取って、ウィッグも取った。
まとめていた自毛をぐしゃぐしゃと乱暴に直しても、メイクまでは取れないけど……。
ゆっくり振り向けば、目を見開く昴。翔太とレイも驚いていた。
「行くわよ透」
奈々があたしの背中を押してちぃ君の車へ向かう。助手席に座ると、ちぃ君が「閉めるよ」と微笑んでくれた。
「トールッ!」
──バタン!!!
昴のあたしを呼ぶ声と、ドアが閉まった音がかぶった。
ちぃ君は運転席に回りドアを開けたけれど、入ってこない。
「……残念だね、昴くん? 透ちゃんの王子様は、俺になったんだよ」
そう言ったちぃ君は運転席に座り、ドアを閉めるとすぐに走り出した。
あたしは走り去る前に、窓からチラリと昴を見る。
「――……」
校門を出ると、ちぃ君は音楽のボリュームを下げてサングラスを外した。
「こんなんでいいの?」
「ええ。充分よ。ありがとう」
やっぱり奈々の仕業か……。
そんなことを考えながら、ゴツン、と窓に頭を預ける。
“トールッ!”
昴の叫び声が頭の中でこだまする。
走り去る前に見た昴の顔が、脳裏に焼き付いている。悲しそうな、不安そうな、泣きそうな顔だった。
ねぇ、昴……。
信じたいよ。
あたしを呼んだ声の大きさも、あたしを見た悲痛な顔も、信じていいの?
あたし、昴を好きでいていいの?



