楽しみにしていたのによくも……うらめしや……。


床に落ちた可哀想な苺から視線を逸らして、テーブルを思い切り叩いた人物を睨み上げる。


「――ひっ!」


テーブルを叩いた人物は、もはや人ではなく大魔王と化した奈々様だった。



「こんっのバカ犬!! どれだけ探したと思ってるのよ!!」


奈々にしては有り得ないほど大きな声に、耳がキーンとする。


言い訳をしようと口を開いたけど、奈々が目にうっすらと涙を浮かべていたから、そんな気力はなくなってしまった。



「……ごめんなさい」


素直に謝ると、はぁ、と短く溜め息をついて奈々はあたしの前の席に座った。


「奈々。ほら水」

「……ああ隼人先輩。ありがとう」


隼人がグラスを渡し、奈々は水を一口飲む。


「何か頼むか?」

「ええ。アイスコーヒあるかしら」

「アイスコーヒな。了解」


奈々は暑いと言わんばかりにコートを脱いで、顔を手で扇いだ。


……走って探してくれたのかな。


申し訳無くてなって俯くと、いつも通りの奈々の声が聞こえた。


「2時間も探しちゃったじゃないの。最低ね。まさかここにいるなんて……透の家まで行ったのよ?」

「……ごめんなさい」

「携帯にも出ないし、街中探したわよ。湊磨と大聖と忍にまで電話しちゃったじゃないの」

「……ごめん」

「いいわよ。見つかったんだから」


また目の奥が、じんわり熱くなってくる。


「翔太に電話するわ」


顔を上げると、奈々は携帯を耳に当てて翔太に「見つかった」と話していた。


翔太とキョウも手分けしてあたしを探してたみたい……。


申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



心配かけて、ごめんね。


心配してくれて、ありがとう。