気付いた時にはもう遅かった。
「……トール?」
あたしのポケットに入ってる携帯が鳴り、振り向いて驚いた顔をする昴。
……それは、見られたって驚いてる顔?
「……覗き見? 趣味悪いね」
あたしだと分かるなりフッと嘲笑うレイに、何の反応も出来ない。
「トー…」
「来ないで!!!」
一歩進んだ昴に思わず叫ぶ。昴は体を揺らして、困惑した表情を見せた。
「……来ないで……」
レイには何も反応出来なかったのに、昴が動いただけで、喋っただけで、体が震えて目の奥がじんわり熱くなる。
ねぇ、何してたの? あたし、外で待ってたんだよ?
1人で浮かれて待ってたのに、レイと何してるの? 愛してるって、何?
……あたしは、昴の彼女じゃないの?
頭には浮かぶのに、口が動かない。聞きたいのに、怖くて聞けない。
「――ットール!」
逃げ出したあたしの背中に昴の声が突き刺さる。
それでも足を止めることなんてなくって、走って走って、怖くて怖くて、現実から目を背けた。
「あ。来たで、とおっ……」
「ちょっと透!?」
待ってくれていた奈々たちの横を、猛スピードで駆け抜けた。
――ヤダ。ヤダ、嫌だ!
嘘だよ。嘘に決まってる。
寝て起きたら夢だって分かる。
夢だよ。全部、夢に決まってる。
「……っ……うっ……」
ボタボタ落ちる涙で、前が良く見えない。冷たい風が肌に突き刺さって、足が痛い。重い。
もう、走れない。



