――――――…
「ふぅん。やっばりレイって昴が好きだから日本に来たのね」
登校してすぐ奈々に昨日のことを話すと、さも分かってましたって感じの奈々にあたしは暗くなる。
「なんかさ、レイって昴の幼なじみでしょ? あたしなんかより全然長く一緒にいたわけじゃん。……あたしより昴のこと知ってるよね、絶対」
昴は本気の子には手を出さない。
その言葉が、ずっと胸に引っ掛かっていた。
「私にはただの戯れ言にしか聞こえないけれど。もしくは負け惜しみよね。言わせとけばいいじゃない、負け犬の言葉なんて」
奈々ちゃん……今日も毒舌のオンパレードですね!
「まあ昴に言われたわけじゃないから……気にしないようにはするけどさ」
「そうよ。あと5日の辛抱じゃないの。逆に5日間、昴にレイを近づけなきゃいいのよ」
「……そうだね」
でもレイだって、昴のことが好きで仕方ないんだろうなって思う。
身を引くつもりなんて毛頭無いけど、昴を好きだって気持ちはよく分かるし、伝わる。
昴を好きな気持ちは誰にも負けませんけどね! アメリカになんて絶対に行かせません!
先手必勝!と言わんばかりに、あたしは昴の放課後を確保するために2年生の階に赴く。
「すっばる!」
クラスを覗くと、案の定レイが昴にべったりくっ付いていた。
「トールッ」
あたしを見つけてふにゃっと笑う昴。
その笑顔が嘘だなんて、あたしは絶対信じないよ。
「どーしたの?」
「あのね、隼人のバイト先がパスタ屋さんでね? 今日の放課後、一緒に行きたいな~って思ってたんだけど……無理?」
チラリと見上げると昴は視線を逸らして、手を口元へ持って行った。
「……ウン。いいよ。ダイジョブ!」
「良かった! じゃあ放課後ね」
「ウン。バイバイ」
昴に笑顔を向けてチラッと教室を見ると、レイがあたしを見ていた。サッと顔を背けて、自分の教室に戻る。
レイ……笑ってた。
ほくそ笑んでた。
昴はアメリカに連れて帰る。レイの言葉を思い出してしまって、言いようのない不安が襲ってきてしまう。
まるですでに決まってるみたいに、必死に放課後デートを取り付けるあたしを、せいぜい頑張ればって感じで見てたのかもしれない。
あたしがいない場で何をしてるのか分からない。
あたしに何もしてこないのが、逆に怖い。
昴に昨日、ダイスキと言われたばかりなのに。どうしてこんなに不安になるんだろう。
あたしはまるで、姿形が見えないものに怯えてるみたいだ。



