「――る。透っ」
「えっ!?」
慌てて顔を上げると、奈々が立ち上がってあたしを見下ろしている。
「何ぼーっとしてるのよ。総会終わったわよ」
「へっ! あっ、ああゴメンッ」
周りを見渡すと生徒がゾロゾロと体育館を出ていて、慌てて立ち上がると奈々は溜め息をついた。
「前に電話で言ってた昴の幼なじみって、彼女よね」
「……うん。そうだと思う」
ブルゾンのポケットに手を突っ込んで、目を伏せる。
日本に来たって、留学生ってことだったんだなぁ……。それなら昴の下駄箱にチョコ入れることが出来たのも、頷けるよね。
──バチンッ!
「い……っ! 何すんのさ奈々!」
デコピンをくらった額を押さえて奈々に怒ると「バカじゃないの」と冷たい目で見られた。
「昴の彼女は透でしょう? 落ち込む意味が分からないわ」
奈々も、周りの生徒が元カノかもしれないと噂していたのを聞いてたのかもしれない。
「……だって」
「だってもクソもないわよ」
「でも!」
「お黙り透」
言い返せず口を尖らせると、奈々はあたしの毛先に触れる。
「はぁ……気持ち悪いわね」
「何がさ」
「落ち込む透、気持ち悪いわ」
目を見張ると奈々は声を出さずに笑って、いつものように1人で先に歩いて行ってしまった。
「…………」
デコピンされた額をもう一度触って、ギュッと唇を結ぶ。
もっと他の励まし方してほしかったなぁ……。なんて思いながら、口の端が上がってる自分に気付いた。
ありがとう奈々。
あたし、元気出たよ!



