「それで? 透はいつになったら渡すのかしら」
湯気が出そうな翔太を無視して奈々があたしに問い掛けると、「やっぱりあるんだ」とキョウが頬笑みながら言った。
「……あげないもん」
極力昴を視界から追い出しながら言ったけど、ショックを受けてるのが分かる。
そんな可愛い昴を、ちょっとイジメたくなってしまった。
「ナイの……?」
しょんぼりする昴に、ツンとして答える。
「ないって言ったらどうする?」
散々あげるあげると昴の目の前で言ってたけど、騙されやすいのか昴は信じてしまった。
「……ガマンする」
眉を下げてぽつりと言った昴に危うくタックルをかましそうになる。
やばい……あげたい……。
今すぐ嘘ぴょーん!とか言ってチョコをあげたい! ついでにあたしもあげたい!
「オレがあげるから、イイ」
「……はひ?」
すでに紙袋に手を伸ばしていたあたしに、昴はブレザーのポケットに手を突っ込んで、白い小さな箱を取り出した。
「――……」
昴は自ら箱を開けて、中の物をあたしに見せる。
「Happy valentine」
優しく微笑む昴に胸が熱くなって、否応なしに涙が滲んだ。
――奈々。
指輪ってこんなに嬉しい気持ちになるんだね。
「うぅっ……」
箱に入ったままの指輪を受け取って目に涙を溜めたあたしを、昴はおかしそうに笑う。
「ミテミテ、トールッ」
指輪から昴に視線を移すと、手の甲が見えるように顔の横へ左手を添えていた。
「……」



