「苦しい!」
「まあまあ、透」
「――!? なに……っ」
湊磨は僅かに離れたけど、完全にあたしを抱き締めるのをやめてくれない。
「恥ずかしい?」
「いえ別に……それよりも顔が近いんだけど」
「……仕方ねぇなぁ」
「は? 何、が……っ!?」
グイッと湊磨があたしのフェイスラインを掴んで、更に顔を近付けてきた。
「ちょっと何!?」
必死に顔を横に向けるあたしの顎を上に向けて、あろうことか腰に手を回してきた湊磨。
「だから教えてやるって」
「いや何をですか!?」
この体勢ってあれだよね!? 昴があたしにキスする時にもの凄く近い状況なんだけど……。
あたし湊磨にキスされんの!?
「さて問題です。お前にとって男は誰なのか」
「は? ちょっ……意味不明なんですけど!」
湊磨を押し返そうとしても、鍛えられた体はビクともしない。その間にどんどん湊磨の唇が近付いてくる。
い…………っ。
「いやだあぁぁああ!!」
──ドカッ!と、目を瞑っていたあたしが湊磨を蹴りあげる前に硬質な音が響き、体の至る所を固定していた力が消えた。
「……What are you doing?」
静かな怒りを含んだ声が、鼓膜を揺らす。
「す……ばる……?」
うっすら涙が浮かぶ視界に「お前は何をしているんだ」と言って現れたのは、紛れもなくあたしの王子だった。
昴は少し息を乱して、床にしゃがみ込む湊磨の前に立ちはだかっている。



