「奈々っ。はよ乗れや」
バックシートをぽんと叩いた翔太に促され、不慣れな動きで何とかまたがる。
「しっかり掴まっとれよ」
その言葉に、走行中落ちるのだけは絶対にご免だと思い、翔太が着てる青いダウンの腰あたりを気持ち程度に握る。
すると翔太はガクッと頭を下げて、ゆっくり振り向いた。
「あんなぁ……振り落とされたいんか?」
そう言われた瞬間両手首を掴まれ、前に引っ張られた。
「!!」
ボスッ!と間抜けな音と共に、目の前に青色が広がる。
私の手や腕は、翔太の腰にしっかりと回されていた。
「ほな行くで~」
ドルンッとエンジン音がして、黒いバイクは走り出す。
私は大きな背中に頭を預けたまま、身動きが取れなかった。
心臓が、なんだかうるさい。
……ムカつくわね。
満足そうな翔太も、手首を引いた力強さも、男らしい背中も、丁寧な運転も。私のペースを乱す。
「……翔太のくせに、生意気」
聞こえるはずのない悪態をついて、目を瞑った。
大きな背中から温かい体温が伝わる。
まぁ……ふたり一緒なら、多少の寒さくらい我慢してあげてもいいわ。
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