[angle:奈々]



「……有り得ないわ」


真っ白なコートに身を包んで家を出ると、翔太が待っていた。その横には、ピカピカに黒光するいかつい二輪バイク。


「ごっつぅカッコイイやろ!?」

「最低。バカ丸出し。信じられないわ」

「何でやねん!」


このクソ寒い冬に、バイク? 私を凍死させる気?


「奈々は後ろやねんから、思っとるほど寒ないで」

「寒いに決まってるでしょ。歩いた方がまだマシだわ」

「なんやねん奈々~! 俺免許取って1年経っとるんやで!? まだ後ろに誰も乗せたことないんやで!?」


今にも泣き出しそうな翔太に、冷たく言い放つ。


「だから何だってのうのよ。後ろに誰を乗せたかなんて今どうでもいいじゃない」

「あほぅ! 奈々を1番最初に乗せたかったんやろ!? 彼女やしな……っ!」


少し照れながら得意げに話す翔太って、ほんと……。



「気持ち悪いわ」

「んなっ! ~っいいから乗れや! ほらメット!」


太陽の光を浴びてキラリと光る、ラメの入った黒いメットを差し出す翔太。


渋々受け止ると、翔太も自分のメットを被ってゴーグルをしていた。


これを私に被れと?


……せっかく髪巻いたのに崩れちゃうじゃないの。


「何しとんねん奈々。……被り方も知らんのか?」


「これだからお嬢様は」と言いながら、翔太はメットを取り上げると私に被せた。


至近距離で目が合うと、男にしては大きな瞳が柔く細められる。



「ほな行きますか~」


バイクにまたがりエンジンをかけた姿に、ほんの少し、頬が緩んでしまった。