「なぁ! 頼むわ奈々ーっ!」
「お黙り翔太」
「「「…………」」」
放課後の昇降口で言い争う奈々と翔太を、あたしと昴とキョウは黙って見ていた。
「なぁ奈々ーっ! 来てぇやぁ!」
「行けないって言ってるでしょう?」
はぁぁー……と長い溜め息をつく奈々は、段々と不機嫌MAXに近付いている。
「あ! 奈々ちゃんバイバーイッ」
「ごきげんよう」
パッと美しい笑顔に変え、クラスメイトに挨拶を返した奈々にキョウは盛大に吹き出した。
凄いなぁ……奈々、女優さんになればいいんじゃないかなぁ……。
相変わらずあたしたちの前以外では清楚なお嬢様を演じる奈々もすごいけど、素の奈々に怖気づかないで噛み付く翔太もすごい。
「はぁ……もうこの話終わりにしてくれる?」
「俺のイベントくらい来てくれたってえぇやん!」
言い争いの発端は、翔太が所属するダンスチームのイベント。
それにあたしたちを誘ってくれたんだけど……。
「だから、お稽古があるって何回言ったら分かるのかしら」
肝心の奈々はお稽古があって来れないらしい。
「夜までお稽古のはずないやん!」
まぁ、確かにそうなんだけど……。
翔太がイベントに出るのは夜9時からで、奈々のお稽古は夜8時までだったはず。