「――失礼します」
途方に暮れる翔太をほっといて、あたしと昴で運ばれてきた料理を食べている最中。13時半を過ぎた頃、訪問者がやってきた。
「楽しんでる?」
「「キョウ!」」
姿を現したのは、黒いスーツに身を包んだキョウだった。
「……何やねんお前、その格好」
「ハジメテみた! カッコイーッ」
「ありがと昴。俺旅館の中あちこち移動するから、お客様に私服は見せられないんだよ。高級旅館って色々厳しくて」
今サラッと高級旅館って言った……! でもスーツ似合う!
キョウはネクタイを緩めながら座椅子に腰掛けて、翔太に笑顔を向ける。
「らしくないね。緊張して飯も食べられないなんて」
「うっさいわ!」
「そんなんでちゃんと奈々のこと連れ去れるの?」
「出来るに決まっとるやろ! つーか連れ去るとか言うなや、こっぱずかしい!」
顔を真っ赤にして声を張る翔太に、キョウは口を押さえて俯いた。
「――……ぶふっ!」
「どうせ堪えきれないんやから最初から笑えっちゅーねん!」
翔太はプルプル体を震わせるキョウの頭を思いっきりどつく。
「くくっ……ごめんごめん。まあとにかく頑張りなよ。奈々にもっかい告白するんでしょ? 今度はちゃんと伝えなよね。誤解も翔太の口から解きなよ?」
優しく微笑むキョウに、翔太は恥ずかしそうにしながらも答える。
「……当たり前なこと言うなや。どこぞの知らんオッサンなんかに奈々を取られちゃ堪らんからな!」
「オッサン?」
「奈々の見合い相手。油ぎっしゅなメタボリックの予想やねん」
「ぶはっ! 油って……っははははっ! ひ、苦し……っメタボ……っ!」
「どんだけツボってんねん!」
騒ぐふたりに、あたしと昴は顔を見合わせて笑った。
仲良いなぁ。キョウは、翔太が心配なんだね。
「はー……笑い疲れた。じゃあ俺バイト戻るね」
「はよ行ってまえ!」
「バイト頑張ってねっ」
「うん。またね」
キョウはネクタイを締め直した手を軽く上げて、バイトに戻っていった。
時刻は14時になる5分前。
キョウが出て行ってしばらくすると微かな足音と会話が聞こえて、どうやら白百合の間に入っていったみたいだった。
あたしたち3人は顔を見合わす。
お見合いが始まった!



