「きょうは、かえるだけだよネ?」
予鈴が鳴って食堂から出たあたしたちは、いつも通り分かれ道の階段前でお話中。
「うん。お母さんいないから、夕飯作んなきゃいけないんだ」
「じゃあ、stationまでかえろー」
「ごめんねっ」
「ううん。エラい、トール」
王子スマイルに悩殺されるあたしはぶっ倒れないように、隣にいた奈々の肩を掴む。
エラいだなんて……立派だなんて……好きだなんて! あたしも好きっ!
「脳内妄想で言ってもないこと付け足さないで透。気持ち悪いわ」
「ぶくくっ……」
「相変わらずホンッマ幸せそうやなぁ」
あたしと昴の会話を真横で聞いてた奈々たちが言うと、昴がパッと顔を明るくした。
「そうみたっ?」
「アホゥ! 見たちゃうわ。見えたやろ?」
「んんっ! そーみえた?」
「見えたよ。ふたりとも、幸せそうだね」
キョウがおっとりとした口調で言えば、昴はふにゃっと笑う。
かーわーいーいー!
「透」
「なぁに奈々ちゃんっ」
「楽しみが増えたわ」
「――……え゙?」
黒さ全開で微笑む奈々に口元を引きつらせると、チャイムが校舎に響き渡った。
「アカン本鈴! ほなまたなっ」
「あ、じゃーね!」
階段を駆け上がっていく昴たちに手を振ってから急いで奈々を見ると、クスクスと笑っているだけ。
チャイムが……何かの合図に聞こえる。むしろあたしの為のレクイエムだったらどうしよう。
「何!? 奈々、今度は何企んでるの!?」
「ふふっ……べ、つ、に?」
そう言いながらうっとりする奈々を見て、あたしは青ざめる以外何も出来なかった。
奈々の陰謀が、また始まる予感です……。
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