ない!



ない!



ないのよ!
私の定期入れが!

 どーしょう!
 あの定期入れの中には、私の学生証と。

 それからずっと想い続けている人の写真・・・。

 分かっている。
 もう諦めなきゃいけないってコト。

 あれから3年が経とうとしているのに、まだ忘れられない。

 彼との思い出は、色褪せることなく私の中で繰り返し、繰り返し思い出される。

 チョコレート色の肌と、強い光を放って輝く瞳は、吸い寄せられるような錯覚を起こす。
 優しさと強さを持ち合わせ、男の子ぽかった私を、初めて女の子として接してくれた人・・・。

 でも、あの日以来、挨拶さえしない冷たい関係になってしまった。

 その想いが今もまだ私の心を捕らえている。
 忘れたいのに、忘れられない。
 月日は流れていくのに、立ち止まってしまった私はどうする事も出来ない。

 たった一枚の写真だけが大切な宝物。
 泣くつもりなんてないのに涙が出てしまう。

 これは神様が忘れなさいって言っているのかな?

 高校3年になった私だって、今までに告白されたことはあったけれど、あの人が忘れられなくて断っていた。

 私が落ち込むと、携帯の着うたが鳴った。

 涙を拭くのに気をとられていたので、かかってきた相手の確認をしないまま、携帯に出る。

「愛田ですけど」

 そう言っても答えが返ってこず、悪戯電話なのかと思って切ろうとした時に声が聞こえてきた。
 けれど、電波が悪いのかよく聞こえない。

「はい? 良く聞こえないんでもう一度・・・」

 聴き返そうとしたら、相手は一気に用件だけ言うと電話を切ってしまった。

 ツー、ツー、と切れた音を繰り返す携帯を聴いたままで、相手の用件を思い出す。

 パスケースを拾ったから取りに来て欲しいって言ってた。
 でも、何故用件だけを言って、名前も名乗らずにさっさと電話を切ってしまったんだろう?

 そして何故私は相手の声に聞き覚えがあるのだろうか?

 思い出したくて、思い出したくない。
 すっきりしない気分のまま、私は携帯を切った。

 答えは明日、わかる・・・・・・。