「葉月の卒業、もうすぐね」

「卒業式は春だけど、夏にしか取れない課程が少し残ってるから夏まではここにいるわよ」

「ねえ、この際、アメリカで就職すれば?」

リンは説得するような口調で私にそう言った。

「私ね、自分の感性を表現しようとする時、やっぱり日本語じゃないとダメなの。意志表示は英語のほうが楽だと思うけど、感性の表現は英語じゃ出来ない。っていう事が分かったから日本へ帰る」

本当のことだった。英語でレポートを書くことは全く苦では無かった。むしろ得意だった。レポートの評価は常に良かった。リサーチの結果や理論を説明するのには、小難しい単語を並べ立てて表す日本語より、英語の方が楽だったのだ。しかし、自分の感性を表現するのには、英語は私にとって不便だった。自分では大満足のキャッチコピーが、アメリカ人の教授に言わせると、全くキャッチーではないということが多々あったのだ。