一台、シルバーに底光りするワゴン車が横を通って行った。

涙が出そうだ。




―翠の父親は、去年の今日、交通事故で帰らぬ人に―




「翠……何でそんなに強がってばっかなんだよ」

おれはハンドルにしがみつき、あの太陽のようにきつい陽射しのような笑顔ばかりを、まぶたの裏で見た。

翠の眩しい笑顔を、見た。



―翠の父親はちょっと変わり者で有名だったんだよ―



―翠が変わってるのも、あの人譲りなのかも―



―あの人の趣味は、夜の学校に忍び込む事だったんだよ。へんな人だと思わない?―



翠が言っていた、会いたい幽霊、の正体がようやく分かった。

何となく。

でも、おれは密かに確信した。



―その帰り道、翠の父親は交通事故に―



―翠の左耳のピアス。あの人からの最後のプレゼントなんだよ―



さっき、夜の教室で翠は言っていた。

今日はスペシャルな日だ、と。



―今日はあの人の命日で、翠の誕生日でもあるんだよ―



―あの子、朝から様子がおかしかったから、今日は特別辛かったのかも―



―そんな時に翠の側にいてくれて、ありがとね―



涙が溢れる前に、おれは自転車を走らせた。

今日も翠は元気だったじゃないか。

そんな辛い事を隠していたのか。

金色の髪の毛の巻き具合も、ネイルの仕上がり具合も、化粧も完璧だった。

それは辛さを紛らわすためのものだったんだろうか。

今日の翠は何もかも、全部、いっぱいいっぱいだったに違いない。

それなのに、おれは。



―もう1つ教えとくよ。翠の父親は南高校の野球部だったんだよ―



―あんたと同じピッチャーだった―



ただっ広い道路の片隅で、おれの上空に浮かぶポラリスに誓った。

おれが、翠を甲子園に連れていく。



―補欠!―