球技大会の朝、目が覚めると体が疼いていた。

夢に見たからだ。

相澤先輩が連れて行ってくれた、あの甲子園球場の夢を。

前日、翠がフェンス越しで言った事は本当になった。

明日になれば人生が変わっているかもしれない、と。

人の生が紙一重だと言うのならば、人の感情はそれよりも薄い紙で一重になっているのかもしれない。

そして、それはひょんな事で破かれたり、折り畳まれたりするものなのかもしれない。

ちょっとした事で、人の人生が180度転がってしまうように。

例えば、おれの場合は球技大会がきっかけになった。

高校生になって初めての球技大会を境目に、人生が転がり始めた。

いや、一気に逆転してしまった。

淡い月明かりと強烈な太陽光線くらい違う、大逆転劇だった。

「授業が無いって最高よねえ、補欠」

「おお」

一応、進学校のわりにこのクラスの者達は、勉強が嫌いだ。

無論、おれも翠も。

窓際後ろから2番目と3番目の席に座り、おれは固い椅子の背もたれに体重をかけ、だらしなく座っていた。

翠は机の上に体をだらんと伏せて、だらだらしている。

その時、毎日球技大会だったらいいのに、と言いながら結衣が教室に入ってきた。

上履きの踵を潰し、ペタンペタンと音を鳴らしながら。

バスケットボールを選択した結衣が言うには、2年生のクラスに一回戦で敗退したらしかった。

結衣のすぐ後に明里も教室に戻ってきた。

今日は珍しく長い黒髪をひとつに束ねて、ポニーテールにしていた。

2人とも、珍しく額に汗を滲ませている。

「うひょー! 教室ガラガラじゃん」

と結衣が言い、

「やばっ! 軽く貸し切り?」

なんて暢気に明里が続けて、窓際でだらけていたおれと翠の元へ寄ってきた。

「負けましたー」

「あー、疲れた疲れた」

負けたくせに、結衣も明里も非常に楽しそうにしている。

こういう、さっぱりしているノンオイルなところが、彼女達のいいところだ。