南高校の校門を出ると、真っ先に見事な八重桜のトンネルがある。

毎年、ソメイヨシノが散っても、しばらくは咲き盛りを保つ。

今年もきっと、見事に咲き誇ることだろう。

八重桜は、生き様がすごい。

まるで、翠のようだ。

なごり雪が混じった春の風にビョオビョオ叩かれても、なかなか折れない。

絶対に、枯れたりしない。

散っては咲き、散っては咲き。

また、来年も咲く。

その次も、また次も。

おれみたいにひょろひょろした根っこじゃなくて、しっかりした根っこがあるからだ。

だから、強いのだろう。

だから、翠はあんなにきれいなのだろう。









地元のテレビ局にチャンネルを合わせると、春の選抜県予選の決勝戦がクライマックスを迎えていた。

解説者が狂ったような声を上げた時、おれはテレビの画面にへばりついた。

「打った! 打ったあー! 逆転サヨナラー!」

「9回裏、東ヶ丘エース、藤森(ふじもり)! 打たれましたー!」

「やはり今年も横綱桜花! 強い! 最後は平野のサヨナラ二塁打!」

修司もまた、根っこの強い八重桜だ。





今年も横綱桜花

逆転され、再逆転した横綱のミラクル逆転劇

大砲平野 サヨナラ二塁打






その見出しが翌日の地元スポーツ新聞の一面を飾ったのは、言うまでもない。

またしても修司は、おれに差を見せ付けてずっと先を走っていた。

今年の春の甲子園行きの切符も、修司率いる桜花大附属が掴みとった。

手術の翌日、翠は麻酔から醒めて、一週間後にはまた個室へ戻った。

今は顔色も良く定期的に検査の日々の中、放射線治療を受けながら翠は笑っている。

と言いたいところだが、春になってすぐに翠は退院した。

まだ、なごり雪の春の始まりに、翠は今もおれの隣で豪快に笑っている。









「このチキンエース! シャキッと投げろや!」

ひとつ、冬を越えて翠の髪の毛は少し伸び始めて、フランス人形の風格を増した。

春休みは翠に全然かまってやれないほど、練習ばかりの毎日だ。