「エスパーじゃないけど、あたしには見えんのよ! 補欠が泣いてればすぐ分かるし。笑ってんのも分かる」

あたしは天下無敵の翠よ、と言い、翠は細い体でおれに抱き付いた。

「え、朝っぱらから?」

おれはクスクス笑いながら、翠を抱き締めた。

「補欠、勝ってね」

本当は不安で怖くて仕方ないのだろう。

翠は震えていた。

決して口には出さないけど、おれには分かる。

だって、おれは補欠なんだから。

また夜に、と翠と約束をして、おれは病院を後にした。

病室で翠が泣いているかもしれない。

間食は禁止だと言われているらしいけれど。

今日、練習が終わったら翠の好きなキャンディーを買って行こう。

炭酸味の。

レモングラスの香りがする、口の中でシュワシュワ弾けるキャンディーを。