カシ。前歯が食パンの耳を突き抜ける。

 ニンニクフレーバーは、まだ口の中には侵入してくれず、鼻先で、「大口開けてかじりつけよ」と私を誘惑する。

 ニンニク君の声優は、私の頭の中で正志の声だった。ちょっとムっとして、正志を見やれば、単行本を片手にコーヒーを啜っている。

 何よ、余裕ぶっこいちゃって。

 …………。

 負けた。あっさり誘惑に負けた。
 ニンニクの程よい辛味と食パン、炭水化物特有の甘みが交互に口内を支配して、そのうちパセリの説得で自然と調和する。

 うまっ。完敗だわ。

 ガリトーに負けても、正志には負けない!
 絶対言わせるんですから。

 次の手は……。

「正志!! 紙と鉛筆よ!」

 声を張り上げた私には見向きもせず、黒目を上下に動かしながら、

「ある場所知ってんだろ」

一言残して、ページをめくる。

 ふふふ。

 そんな余裕かましてられるのも……今のうちよ!!