「……65点」

 カチカチ鳴らせている携帯の上に、バサっと私が置くと、そのノートに目を走らせて、ボソッと言う。

「落ちるな、確実に」

 一度ならず二度までもっ!

 現役東大生から告げられる不名誉なお墨付きは、正直、ショックなもので。

「そ、そのために、アンタがいるんでしょ……」

 思いがけず、声が震える。

 赤ペンを持って、再度採点していく手を睨みつけた。

「でしっ!」

 思わぬ衝撃にカクンと後ろに頭がもっていかれた。

「変な声。きゃ、とか言えねえのかよ。色気ねえな」

「うるさいわね!
痛いじゃないのよ!
レディーにデコピンするなんて、最低よ!」

「何がレディーだ。アホか。
お前、毛えすら生えてねえだろ」

「生えてるわよ!
体は立派な女なんだから!」

「あ、そ。ガキ」

「キィィィ!
アンタね、見たら度肝抜くわよ!
鼻血出して失神するわよ!
美しいんだから、私の体は!」

「ぷっ」

「笑うんじゃないわよ、クソオヤジ」

「あ? 何だと?」

「ジョシチューガクセーからしたら、あんたなんかオヤジよ、オヤジ」

「ムカつく。ぜってーありえねえ。死んでもありえねえ」

「ふん。私が落ちたらただじゃおかないからね!」

「ふーん」

「絶対受かるんだから、覚悟してなさいよ!」

「うるせえな。お前は落ちねえよ。俺が教えんだから」

 立ち上がっていきり立つ私の頭を、正志は座ったまま手を伸ばして、ポンっと叩いた。