……ときたけど、ここで、怒ったら敵の思う壷だ。なんの根拠もなくそう思った。

 私はこの時、無意識のうちに正志を『敵』と位置付けた。

 机の備え付けの本棚と筆立てから、言われた物を取り出す。

 どうだ。出してやったわよ。

 正志は、無遠慮に数学の教科書をつかむと、最末のページを開いた。

「これ。終ったら言え」

 そのページには、数学の総括問題が並んでいた。

「三分の一はまだ習ってないじゃないの、タコ」
 とは、言わなかった。喉元まで出かかったけれど。

 言ってしまったら、横で再び携帯をいじくり出した正志に屈服してしまうような気がして。

 全部解いてやるわ。意地でも。

 そして、平伏させてやるわ。

「ははあ、由香子様には敵いません」って団扇、扇がせてやろうじゃないの。

 見てなさいよ。