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「御呼びですか、博士」
一人の青年が、気難しい顔をしたフロスト博士の研究室に入って来た。
「そろそろ報告を聞きたいと思ってな」
一礼して博士のいる机に近づく彼は、レイを捜すためにリアレスク国内に潜入している最近派遣された捜索員の一人だ。
爽やかさを感じさせる涼しげな顔立ち。穏やかささえ漂わせる柔らかい声。ロスタナの人間としては珍しい深い青色をした瞳。その目の鋭さだけが、彼の冷徹な性格を垣間見させている。
「端的に申し上げますと、一切情報はございません」
淡々と話す彼の冷たい眼差しに気圧されたのか、博士は愚痴を言わず黙って報告を聞いていた。
「ですが“R”はリアレスク国内にいると思われます。いや、必ずリアレスクにいます」
やけに確信のこもった口調に、博士は眉をしかめる。
「なぜそう思う」
「勘です」
微かに口端を上げた彼の答えが気に障ったのだろう博士が何か言おうとするのを、彼は穏やかな声で遮った。
「“R”が脱走した日の風向きをご存知ですか」
「風……?」
「仮に水死したとしても、湖に沈んでいるのでないならどこかに流れついているはず。あの日吹いていたのは強い北風。ロスタナから見てリアレスクの方向です」
ああ、と博士は小さく相槌をうつ。
「水死して流れ着いたのであれば必ず噂が流れるでしょう。あの容姿ですから」
そうでないという事は、と言って彼は言葉を止め、博士の反応を見た。
「しかし、もう半年も経っている。その間に違う国に逃げたという事も考えられるだろう」
博士のその言葉に、彼の瞳は冷ややかな笑みを浮かべた。



