◇ ◇ ◇
「ねぇアンジェ、あれ何?」
二階の窓から外を眺めていたレイが、ベッドの端に腰掛けて絵を描いているアンジェを手招きした。
「どれ?」
「あれ、あのオレンジ色みたいな丸いの」
色を重ねていた手を止めてアンジェは窓辺に寄り、レイの指先にある物を見た。葉の陰に見え隠れする丸い果実。黄色く色づきはじめた杏の実だ。
「ああ、あれは杏だよ」
「あんず?」
「うん。もう少し熟したら食べられるよ」
食べられると聞いた途端、レイの目がキラキラと輝きだした。
「食べられるの? 美味しい? 甘い?」
アンジェは答えるより先に吹き出した。初めて見る食べ物はなんでも『甘い?』と聞くレイが可笑しくてつい笑ってしまう。
「甘酸っぱいよ、杏は」
「甘酸っぱいって?」
「甘いと酸っぱい両方」
「えー、わかんないそれじゃ」
あ、でも、とレイは小さな手のひらをぱちりと合わせた。名案が浮かんだらしい。



