FAKE‐LAKE

 でも、どうしても抱きしめる事は出来なくて。そんな資格ないだろ、と呟く自分が自分の中にいる。
 彼女の背中に触れかけた手を固く握りしめ、腕を下ろした。
 ……ごめん、リーナ。
 アツキは心の中で彼女に謝った。
 ごめん。俺は君の信頼を裏切るような事をしているんだ。セティに、そして君に。味方してもらえるような人間じゃない。
「……アツキ?」
 ぐ、とアツキはリーナの肩を押し返した。
 このまま抱きしめられていたら。これ以上優しい言葉を掛けられたら。
 この温もりに甘えて、彼女を求めてしまいそうで。
 自己嫌悪と自己弁護に振り回されている乱れた感情から逃げるためだけに、彼女の唇に、柔らかな白い肌に触れてしまいそうで。
 少し乱暴にリーナの腕を外してアツキは立ち上がった。
「セティは?」
 平静を装って話を他人に向ける。気になっていたのも確かだが。
「叔父さんは仕事みたい。『ちょっとそこまで』って言ってたから」
『ちょっとそこまで』はリーナにだけ分かる暗号だ。行き先を言えない仕事の時にセティはそう言う。
 何かを思い出したようにリーナはくすくす笑った。
「出かけるまでの間、しつこいくらい聞かれたのよ? アツキは大丈夫だろうかって。そんなに心配なら自分で見に行きなさいって言ったんだけどね」
 本当に二人とも意地っ張りなんだから、とリーナは口を尖らせる。アツキは年下の姪に説教されているセティを想像した。何だか笑える。
 笑みが戻ったアツキにほっとしたのか、リーナは彼の手をとって微笑んだ。