ものごころついた時には、すでに一人でここにいた。一番古い記憶を辿っても、病気でなかった自分はいない。薬を飲むのも、病気なのも一人なのも、アンジェにとって全部『当たり前』の事なのだ。それ以外の生活を彼は知らない。
そしてアンジェはこの生活に十分満足していた。薬を飲めば苦しくならないし、必要な物は揃えてもらっている。何の病気かと医師に聞いた事も、治るものか尋ねた事もない。医師も診察するだけで説明しようとはしない。
誰にも邪魔されずに好きな絵を描く事ができ、植物を育て。
一日中眺めていても飽きない綺麗な景色に囲まれた生活。数分のうちに色を塗り替える夕方の空。まるで喜怒哀楽があるかのように、空の色や天候によって表情を変える湖。
自分は十分幸せだと、彼は思った。
『なぜ、僕はここにいるの?』
ふとした瞬間に胸中を過ぎるその問いの答えを探すのは億劫だった。
なぜ、と問うた所で誰も答えてはくれない。見つからない答えをわざわざ探す気にもならなかった。
本当は答えを知るのが怖いだけかもしれない。
今、目の前にある幸せに満足していた方が、自分を――ここにいる理由を――知って傷付くよりずっといいから。
そう、だから。
アンジェは起き上がり、林檎をかじった。
だから、興味ない。自分の事なんて。知らなくても生きていける。
降り始めた雨粒が風に煽られ、ガラス窓に映るアンジェの横顔を強く叩いた。
そしてアンジェはこの生活に十分満足していた。薬を飲めば苦しくならないし、必要な物は揃えてもらっている。何の病気かと医師に聞いた事も、治るものか尋ねた事もない。医師も診察するだけで説明しようとはしない。
誰にも邪魔されずに好きな絵を描く事ができ、植物を育て。
一日中眺めていても飽きない綺麗な景色に囲まれた生活。数分のうちに色を塗り替える夕方の空。まるで喜怒哀楽があるかのように、空の色や天候によって表情を変える湖。
自分は十分幸せだと、彼は思った。
『なぜ、僕はここにいるの?』
ふとした瞬間に胸中を過ぎるその問いの答えを探すのは億劫だった。
なぜ、と問うた所で誰も答えてはくれない。見つからない答えをわざわざ探す気にもならなかった。
本当は答えを知るのが怖いだけかもしれない。
今、目の前にある幸せに満足していた方が、自分を――ここにいる理由を――知って傷付くよりずっといいから。
そう、だから。
アンジェは起き上がり、林檎をかじった。
だから、興味ない。自分の事なんて。知らなくても生きていける。
降り始めた雨粒が風に煽られ、ガラス窓に映るアンジェの横顔を強く叩いた。



