「たっだいまー! 眼鏡屋のおばちゃんがばば様によろしくって!」
緊張した所内の空気に割って入ったのは、空気を読む事が苦手なニールの明るい声だった。
「お帰りなさい、ニール。もう仕事終わったの?」
一瞬訪れた気まずい沈黙を、奥から出て来たマーリャが柔らかい声で追い払う。
「うん。おれ今日の任務完了してるから」
「そう。じゃ料理の仕上げ、手伝ってちょうだい」
「いいけど、つまみ食いするよ?」
「大丈夫。その分も計算済みだから」
マーリャはふふと楽しそうに笑い、ニールを連れて居間に戻っていった。入り際にアルクに優しく微笑みかける。アルクも小さく頷いてそれに答えた。こういう時のマーリャの機転にはいつも助けられている。
ありがとう、とアルクは心から妻に感謝した。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「へぇ、リアレスクにも発電所が出来るのか」
その日の夜、新聞を広げながらニールは独り言を呟いた。
妹達はカーテンで仕切られた部屋の向こう側で遊んでいる。狭い家に大きな笑い声が響くが、ニールは全然気にならない位新聞に集中していた。
ランプの炎が時々ゆらゆらと揺れる。
「ロスタナみたいに、電気が一般家庭に普及したら便利だろうなぁ」
この国――リアレスクは、小さくて貧しい国だ。人々が“開発”という言葉をひどく嫌い、これと言った資源に恵まれなかったからかもしれない。
アンジェがいつも描いているあの湖と、それを囲む山々の半分を国土に有し、人口は一万人弱。自然を大切にする、のんびりした国民性。気候は比較的穏やかで過ごしやすく、住みやすい国だ。
ただ、学校制度や雇用対策等の確立は遅く、国民の生活水準は低い方。学校に行けるのは裕福な家の子どもだけで、読み書きは親から教わる。ニールのように十歳位で働きはじめる子どもも少なくない。隣の国ロスタナと比べると、高層ビルと掘っ立て小屋程の差がある。
緊張した所内の空気に割って入ったのは、空気を読む事が苦手なニールの明るい声だった。
「お帰りなさい、ニール。もう仕事終わったの?」
一瞬訪れた気まずい沈黙を、奥から出て来たマーリャが柔らかい声で追い払う。
「うん。おれ今日の任務完了してるから」
「そう。じゃ料理の仕上げ、手伝ってちょうだい」
「いいけど、つまみ食いするよ?」
「大丈夫。その分も計算済みだから」
マーリャはふふと楽しそうに笑い、ニールを連れて居間に戻っていった。入り際にアルクに優しく微笑みかける。アルクも小さく頷いてそれに答えた。こういう時のマーリャの機転にはいつも助けられている。
ありがとう、とアルクは心から妻に感謝した。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「へぇ、リアレスクにも発電所が出来るのか」
その日の夜、新聞を広げながらニールは独り言を呟いた。
妹達はカーテンで仕切られた部屋の向こう側で遊んでいる。狭い家に大きな笑い声が響くが、ニールは全然気にならない位新聞に集中していた。
ランプの炎が時々ゆらゆらと揺れる。
「ロスタナみたいに、電気が一般家庭に普及したら便利だろうなぁ」
この国――リアレスクは、小さくて貧しい国だ。人々が“開発”という言葉をひどく嫌い、これと言った資源に恵まれなかったからかもしれない。
アンジェがいつも描いているあの湖と、それを囲む山々の半分を国土に有し、人口は一万人弱。自然を大切にする、のんびりした国民性。気候は比較的穏やかで過ごしやすく、住みやすい国だ。
ただ、学校制度や雇用対策等の確立は遅く、国民の生活水準は低い方。学校に行けるのは裕福な家の子どもだけで、読み書きは親から教わる。ニールのように十歳位で働きはじめる子どもも少なくない。隣の国ロスタナと比べると、高層ビルと掘っ立て小屋程の差がある。



