FAKE‐LAKE

「あ、そういえばばば様、こないだの蜂蜜めちゃくちゃ美味しかったよ」
 ありがとう、と礼を言うとルミカは意外そうな顔をした。
「ほお、お前さんも“ありがとう”なんて言葉知ってたのかい」
「いちいちむかつくなぁ」
 ルミカの照れ隠しの嫌みにニールは口を尖らせ、くるくると丸めた新聞を振り上げてみせる。
「でも、ありがとう。あんまり美味しかったから『坊ちゃん』にも少しあげたんだ」
 屈託なく笑うニールの後ろで、アルクの表情がすっと固くなった。
「おや、たまには良いこともするんじゃないか。少しは見直してやってもいいかねぇ」
 アルクの表情の変化に気付きながら、ルミカはニールに話を合わせる。
「人間、美味しいもの食べると幸せになるだろ? だからさ、ばば様からもらった幸せをちょびっとおすそ分けしたんだ」
 そう言った後で、ニールは急に真面目な顔をして付け加える。
「あ、でも『坊ちゃん』に“ばば様の呪い”がかかったらどうしよう」
「こらっ」
 頭に落ちる尖ったげんこつ。
「ってー、ばば様力強すぎ!」
「可愛いくない事言ってないで、もう一仕事おし。一丁先の眼鏡屋に請求書を届けておいで」
 よほど痛かったのか、ルミカに手渡された青い封筒を涙目で受け取り、ニールはパタパタと配達所を出ていった。
「……いい加減話してやったらどうだい」
 考えこんでいるアルクに、ルミカは溜息まじりに言う。
「何をです」
「わかってるんだろ?」
 ルミカは腰に手を当てて怒ったように続けた。