FAKE‐LAKE

ひゅん、と何かが博士の肩を掠める。

「レイを返せ」

聞き慣れない低い声に博士が振り返ると、青白い顔をしたアンジェが立っていた。

深い怒りを全身からたぎらせ、驚いたように目を見開いている博士を凝視している。

「レイから手を離せ」

博士は自分に向けて構えられているアンジェの左手を見つめた。やはりCORD-Aだったか、と小さく呟く。

「レイを返せ。でなきゃ撃つ」

ぎらぎらと光る憎しみの篭った瞳。

アンジェが本気だと認めた博士は、ゆっくりレイから手を離した。

「レイ」

左手を博士に向けたまま、アンジェはレイに右手を伸ばす。

しかし、レイは動こうとしなかった。アンジェが呼んでも不思議そうに首を傾げるだけ。

薬のせいで記憶を失ったため、アンジェがわからないのだ。

「無駄だ。こいつはお前を覚えていない。かろうじて生きてはいるが人形と大差ない状態だ」

何度もレイに呼び掛けるアンジェを博士は嘲笑った。レイは無表情でアンジェを見つめている。

後ろ手に縛られた姿はまるで奴隷のよう。痣だらけの痩せた顔。赤く腫れた首。腕にまで及ぶ鞭の跡。

表情をくるくる変える、以前の明るいレイとは打って変わった虚ろな瞳。生気を失った目が伸びた前髪の間から覗いていた。

レイを『人形と大差ない状態』にした張本人は、薄い笑いを浮かべて二人を見ている。

アンジェの目に殺意が浮かんだ。