FAKE‐LAKE

 アンジェは『美味しい食べ方』が得手ではなかったので、蜂蜜を紅茶にひとさじ落としてみた。宝石みたいにつやつやと光る蜜が、温かい紅茶の中でゆらゆらと溶けていく。
 その様子を眺めていると、気分までゆるゆると落ち着いていった。
 こくり。一口飲む。
 蜂蜜紅茶の程よい甘さが、心まで染み込んでいく気がした。
「レイ、入れすぎ」
 紅茶のカップに蜂蜜の瓶を傾け、とろとろと入れているレイをたしなめる。
 ぺろ、と舌をだして笑い、レイは瓶に蓋をした。
 あぁ、もう半分無い。今度配達屋さん頼む時は、少し多めに頼まなくては。
 よほど蜂蜜が気に入ったらしく、アンジェの倍くらい甘い紅茶をレイは満足気に飲んでいた。


「ねぇアンジェ、湖に行こうよ」
 いつもより遅い朝食が済んだ後、ロフトで絵の整理をしているアンジェに元気な声が呼びかけた。
「え? 何か言った?」
 ちゃんと聞き取れず、アンジェは片付けの手を止めて聞き返す。
ロフトの下、レイの元気いっぱいな笑顔が若き画家を見上げていた。
「僕、湖に行きたい」
 アンジェの表情が一瞬固まる。
 レイが来てから、湖には時々しか行かなかった。行くとしてもレイを連れて行く事はしなかった。
 そこはレイを見つけた場所。彼が何かから逃げて行き倒れていた場所。
 そこへ行けば嫌な事を思い出させるのではないか、不安にさせるのではないか。
 そう思って時々一人で行く以外はあまり足を運ばなくなっていた。