FAKE‐LAKE

「お願い、ニール。僕を殺して」
 大きな目に涙を溜めてアンジェはそう繰り返す。
 僕が助けられなかったから。だから、とその瞳はしきりに自分を責めていた。
 ニールはアンジェの気持ちがよく分かった。親父が死んだ時に自分もそう感じた。
 ニールはアンジェをぎゅっと抱きしめて優しく囁いた。
「辛いんだな」
 アンジェの表情が崩れる。涙がニールの肩に幾つも落ちた。
「思う存分泣けよ。お前なんでそういう事我慢するんだ?」
 優しい手が背中をさする。耐え切れず、アンジェは片手でニールにしがみついた。
「助けて……あげられなか、た」
「うん」
「そばにいたのに。目の前にいたのに」
「うん」
「ニール」
 しゃくりあげながらアンジェは呟いた。
「苦しいよ……」
『僕の家族になって』
 レイとした約束を思い出す。そして嬉しそうに何度もありがとうを繰り返したレイの笑顔も。
「こんな、苦しくなるくらいなら」
 アンジェは顔を上げた。苦しくて苦しくて、胸が潰れてしまいそうだ。
「あんな約束、するんじゃなかった」
「約束?」
「家族になるって約束」
 亡くす事が、失う事がこんなに辛いなら。初めから家族になんかならなきゃよかったんだ。
 そう言って泣き崩れるアンジェにニールは力強く言った。
「大丈夫だ。傷は完全に癒えなくても、時間がお前の痛みを必ず和らげてくれる」
 経験者がいうんだからな、と言ってニールはアンジェをもう一度抱きしめた。
「お前のおかげでレイは幸せだったと思う。それはおれが保証する。だから、そんなに自分を責めるなよ」


 ……ねぇ、レイ。
 短すぎる人生の大半を劣悪な環境で過ごし、故郷には帰れず、あんなにまで虐待され最後には殺されてしまっても、それでも君は幸せだった?
 アンジェは心の中でレイに尋ねた。
 もう二度と、答えは返ってこないのだけれど――