FAKE‐LAKE

 いつもの場所にアンジェは立った。白いもやが湖を覆っている。
 朝露に濡れた切り株に目をやったアンジェはふと、レイと出会った日の事を思い出した。
 よく晴れた春の日、碧く光る湖のほとり。
 毎日のように通っていたこの場所。椅子がわりの切り株。
 その横に倒れていたレイを助けた事が全ての始まりだった。
『感謝、あなた』
『ありがとうアンジェ』
『アンジェは僕のお兄さんだね』
『出会えて本当によかった』
『今、最高に幸せなんだ』
『家族になってくれてありがとう』
 ぎゅっと唇を噛む。脳裏に浮かぶレイの姿は笑顔ばかりだ。
 その笑顔が、半分人形のようだった僕を変えてくれた。
 嬉しい、楽しい。
 喜び、幸せ。
 人の心の温もり。
 誰かのために何かしたいという願い。
 沢山の温かな感情を教えてくれたのは、誰よりも苛酷な環境で生きてきた幼い少年。
 あの笑顔を取り戻すためなら――
 アンジェが歩きだそうとした時。
「……だろ?」
 背後で人の声がして、アンジェはさっと木の陰に隠れた。