FAKE‐LAKE

 途端に博士の顔色が変わった。
「まさか、あの薬が効かなかったのか?」
 レイは虚ろな目を博士に向け、思い出せた言葉をただ繰り返す。
「あんじぇ」
「どうしてだ? どうして覚えている!」
 掴みかかる博士にレイは嬉しそうに微笑みかけた。
 彼は目の前にいるのが誰か、自分が今どんな状況にあるのか分からなくなっている。
「アン、ジェ」
 さっきよりもはっきりした口調でアンジェの名前を口にするレイを博士は殴った。
「どうしてだ! どうしてその名前を……!」
 数回殴られ、レイの唇から血が流れ出した。レイはそれを拭うことすらしない。抵抗もしない。
 ただ、虚ろな微笑みを浮かべてどこかを見ている。アンジェ、と繰り返し呟きながら。
 博士は棚から例の薬を取り出し、朦朧としているレイの口を押さえ付けて流し込んだ。記憶が無いレイは素直にその危険な液体を飲み込む。
 明らかに多過ぎる薬。追い詰められたような鬼気迫る表情。
 博士は半ば狂っていた。