FAKE‐LAKE

「名前は?」
「……な、まえ?」
「お前はどうしてここにいる?」
 レイは戸惑った。何を聞かれているのか全然わからない。
「どうし、て?」
 言われた事をそのまま繰り返すレイに博士は微笑んだ。記憶が無い。薬が効いたようだ。
「成功だな」
 ぼんやりと博士を見ているレイを抱き上げ、元の部屋へ連れていった。新しい記憶を与えるためだ。
 最後にもう一度、確かめるように博士はレイに尋ねる。
「お前の名前は?」
 わからない。首を傾げるレイの頭の中で誰かが答えた。
 ――レイ
 ぼんやりしていたレイの表情がぐらりと大きく揺れる。今のは誰の声?
 返事をしなくなったレイの瞳を覗きこみ、博士は呟いた。
「薬が少し多すぎたか」
 レイは必死で言葉を探していた。真っ暗な中、光を求めて手を伸ばすように。
 ――レイ
 君は誰? ……僕は、誰?
 何も思い出せない。レイは頭を抱えた。ズキン、と痛むと同時に見つけた一つの単語を恐る恐る口にする。
「……あんじぇ」