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穏やかに吹き抜ける澄んだ緑色の風に誘われて、白い花びらが微笑むように揺れる。
大きな杏の木の幹にある古びた巣箱から、スズメがひょっこり顔を出しチチと鳴く。餌台でパン屑を忙しくつついていた鳥達は、近づいてくる人影を見つけて高い枝へと飛び立った。
町外れ、湖に面した森の中。大きな紙袋を抱えた青年が鼻歌を歌いながら深い緑の中を歩いている。およそ人が住んでいるようには見えないそこに、背の高い木々に囲まれた煉瓦作りの家がぽつんと建っていた。
「こんちはー、配達屋のニールですー」
いつものように、元気でよく通る声が響く。
「アンジェさーん、留守ですかー?」
鍵のかかっていない扉を開けて青年――ニール・アンバーが二度ほど名前を呼ぶと、少しして階段をとんとんと降りてくる音がした。
「あ、アンジェさん! いつもどうも!」
アンジェと呼ばれたこの家の住人らしき少年は、荷物を両手一杯に抱えて笑っている赤茶の髪の青年を歓迎するでも煩わしく思うでもない表情で一瞥し、わずかに頷いた。
「薬と、一週間分の食材。いつものとこにしまっときやすからね!」
ニールがいつもと同じ台詞を言うと、アンジェもいつもと同じ掴み所の無い笑みで答える。



