FAKE‐LAKE


 ◇ ◇ ◇


 誰かの足音が近づいてくる。レイは冷たい床に横たわったまま目を開けた。
 ここに戻ってからもう三日目。博士はあれから一度も姿を見せない。代わりに兵が脱走した罰だと言って鞭打ちに来る。昨日は二回も来た。
 体中にある無数の打ち傷が、息をするたびに痛む。まるで全身が悲鳴を上げているように。
 足音はどんどん近づき、扉が開く。レイの視界を黒い軍靴が横切った。
 ああ、また罰を受ける時間か。一体何日続くんだろう。
 カツ、と足音が止まる。淀んだ空気、不気味な静寂。
 勢いよく振り上げられた鞭が鋭く空を斬り、レイは固く目をつぶった。
 傷付いた背に食い込む重たい一撃。焼け付くような熱い痛みを堪え、いち、とレイは心の中で数えた。
 一体今日は何回打たれるんだろう。昨日は途中で数えるのを止めた。
「……つ……!!」
 打たれるたび、レイは不自由な身体を捩じらせた。鍛えられた腕で振るわれる鞭は彼の華奢な背中に幾度も食らいつき、滲んだ血は破れた服をじわりと赤く染めていく。
 こうなると、分かっていた。兵の中にはレイが脱走したために何がしかの処分を受けた者もいると言う。罰が過度に及ぶのは恐らくそのせいだろう。
 そう、分かっていた。分かっていたけれど、それでもアンジェを助けたかったんだ。