FAKE‐LAKE

「この……!」
 アツキはもう一度拳を振り上げた。瞬間、廊下に響く声。
「俺だって命懸けなんだ!!」
 張り詰めた糸が切れたようにセティは叫んだ。驚いたアツキはそのままの格好で固まっている。
「いや、俺だけじゃない。他に何人もの命が懸かってる。失敗は絶対に許されないんだ。何も知らずに余計な口出しするな!」
 滅多に声を荒げないセティの怒鳴り声に気圧され、アツキはまじまじと彼を見た。
 普段は斜に構えた印象のあるセティの、初めてみる不安げな瞳。追い詰められた表情。
 そう言えばいつのまにこんなに痩せたんだろう。やつれた頬、顔色の悪さに今更気がつく。
 アツキは手を下ろし、素直に謝った。
「悪かったよ。……あそこは兄貴が殺された場所だから、つい」
「分かってる。気にするな」
 セティはぽんとアツキの肩を叩き、部屋に入った。そのままソファに倒れこむ。
 窓辺に寄ったアツキも無言のまま、しばらく沈黙が続いた。