FAKE‐LAKE

「……生きててよかったなぁ」
 大事そうに鉢を抱えてレイは呟く。
「そんなに嬉しいんだ?」
 しみじみとした言い方がおかしくて、アンジェは笑いながら聞いた。
 うん、と大きく頷いてレイは続ける。
「僕、今すごく幸せ」
 それはよかった、とアンジェは微笑んだ。本当に幸せそうなレイの笑顔を見ていると自分まで嬉しくなる。
「……死にたいと思った事もあるけど、生きてて本当によかった」
 レイは涙目でアンジェに笑いかけた。ごめん、僕すぐ泣いちゃうねと恥ずかしそうに目を擦る。
 チチ、と窓の外でスズメが鳴いた。仲間に呼ばれたのか、杏の枝から飛び立っていく。
「……辛かったんだね」
 言葉少なに言うアンジェに、レイは杏の鉢に目を落として小さく頷いた。
「必ず湖の国に帰るって、必ず帰れるんだって信じて生きてきた。でもやっぱり時々、死にたくなるときもあって」
 その時の事を思い出しているのか、レイの表情が暗い影を帯びた。
 自分を“物”扱いする人間ばかりに囲まれた生活。誰も守ってはくれず、誰からも愛してはもらえない日々。
 よく気が狂わなかったなとアンジェは思う。自分だったらきっとおかしくなっている。
『必ず湖の国に帰れるって――』
 その、故郷の微かな記憶だけがレイの命を繋いでいたのだと思うといたたまれない気持ちになった。
「でも」
 レイの瞳に明るさが戻る。
「でも、アンジェに会って兄さんが出来て。ニールに会って人を信じてみようかなって思えるようになって。生きててよかったって、今、心から言えるよ」

 僕は今、最高に幸せなんだ。

 過ぎ去る時の一瞬を切り取って残す写真の様に、その時のレイの笑顔はアンジェの記憶に深く深く焼き付いた。