FAKE‐LAKE

「……、……」
 少年が言葉にならない声を出す。アンジェは少年を振り返り、にこやかに手を上げてみせた。
 本当にいい、のかな。本当に、大丈夫なのかな。
 そう言いたげな、空腹と不安の間で葛藤している少年にアンジェは優しくすすめてみた。
「食べられるものだけでも、どうぞ」
 おずおずと少年は小さな手をパンに伸ばす。痩せ細ったその手は微かに震えていた。
「そのパン少し固いから、スープに浸して食べるといいよ」
 食べる事に夢中になりはじめている少年にアンジェは声をかける。口一杯にパンを頬張りながら小さく頷く彼に、言葉は通じるのだとほっとした。
 スープを啜る音と色鉛筆を選ぶ音が静かな部屋で重なる。
 やがて、アンジェが一枚描きあげるより先に、スプーンが皿に置かれる音がカチャリと静かな部屋に響いた。
「よかった、食べてくれて」
 アンジェの嬉しそうな口調に、少年の黄緑色の瞳がみるみる潤んでいく。涙が頬を伝い、ぽたぽたとテーブルに落ちた。
 突然泣き出した事に驚いたアンジェが慌てて近寄ると、少年は泣きじゃくりながら言った。
「僕、感謝、あなた」
 一瞬何を言われてるのかわからず、アンジェは少年をぽかんと見つめた。
「感謝、とても、とても」
 どうやら彼は『ありがとう』と言っているらしい。
 その片言の感謝の言葉に陽射しのような温かさを感じ、アンジェは初めて『誰かに感謝される』事が幸せなものだ、と知った。