FAKE‐LAKE

「どうしたの?」
 少年はベッドの端まで後ずさり、驚いているアンジェの事を震えながら凝視している。
 恐怖に怯えた少年の瞳に、アンジェは彼の体の深い傷を思い出した。
「何もしないよ?」
 アンジェは少年の無言の問いに穏やかに答え、テーブルの上のスケッチブックを開いた。あまりの少年の怯えように、何を言ってどうしたらいいのかわからない。
 少しそっとしておこう、とアンジェは彼から目を逸らし、絵を描きはじめた。
 少年は恐る恐る部屋を見回す。
 自分の両手首を眺める。
 足首に手をやる。
 何かを確かめるように。
 やがて自分が着ているぶかぶかなアンジェの服に気づき、不思議そうに首を傾げた。
「ちょっと大きかったね」
 アンジェが声をかけると少年はびくっと肩を震わせた。話しかけるだけで怖がらせてしまう事に戸惑い、アンジェは色鉛筆に目を移す。
 助けたはいいものの、どう接したらいいのかわからない。
 こんな時、ニールなら上手に話せるんだろうな。普段人と接する事が無い上に口下手なアンジェは、流れるように言葉を操れるニールの事を羨ましく感じた。
 しばらく少年はアンジェと部屋と自分の格好を交互に眺めていた。
 そして、ようやくアンジェが自分を助けてくれた事に気が付いたらしい。恐る恐るアンジェに近づいてきた。
「なに?」
 視線に気が付いてアンジェは顔を上げる。
 少年は少し離れた所からスケッチブックを覗き込んでいた。
「見る?」
 アンジェの問いかけに少年はキョトンと首を傾げた。
 言葉が通じないのかも知れない。そう思ったアンジェはスケッチブックを少年に手渡した。
「見ていいよ。湖の絵ばっかりだけど」
 受け取ったまま考え込む少年に、アンジェはスケッチブックを指差して開く仕草をしてみせる。ぱちぱちと二度ほど瞬きをし、少年は教えられた通りにスケッチブックを開いた。
「……あ……」
 小さく聞こえたのは言葉か溜息か。
 ベッドの上にスケッチブックを置き、一枚一枚ゆっくり眺める少年をアンジェは改めて観察する。
 外見からすると十二、三歳位だろう。動きがややぎこちなく、反応も幼い感じ。整った目鼻立ちと、あどけなさの残る口許。
 人間、なんだろうか。
 珍しい――と言うより見たことが無い髪と瞳の色に、アンジェは首を捻る。