FAKE‐LAKE

 リーナは大きく頷く。
「“影”じゃない、本当のアツキを知ってるから」
 彼女の想いはアツキの心を動かした。彼女への想いは、憎しみをそして過去を乗り越えるよう彼を立ち上がらせる。
 少しの間の後、アツキは何か決意したように顔をあげた。
「俺、今からでも復讐のカタチを変えられるかな」
「アツキなら出来るよ。誰よりも幸せになって、見返してやろう」
 よかった、泥棒卒業ねとリーナは嬉しそうに微笑む。アツキは頷いて彼女を見つめた。
「俺、変わるから。真っ当な人間になる。だから」
 一瞬ためらったあと、勇気を出して続ける。
「だから……ずっとそばにいてくれる?」
 嬉しそうにリーナは何度も頷いた。白い花びらが陽を浴びて眩しく光るような笑顔。
 アツキの手がそっとリーナの頬を撫でる。
「……好きだよ」
 近づいてくる黒い瞳に、リーナは静かに目を閉じた。
 そっと唇が触れ合う。一度、そしてもう一度。
 息をついた時に目が合い、どちらからともなく笑い出した。
「世界一幸せなおじいちゃんおばあちゃんになろうね」
「そうだな」
 リーナはふふと笑う。
「誓いのキスまでしちゃったからもう後には戻れないよ、アツキ」
 脅すような口調に、アツキはくすと笑い返す。リーナとなら後に戻る理由なんてない。
「リーナと二人で、幸せなおじいちゃんおばあちゃんになる事を誓います」
「誓いまーす!」
 いたずらぽく返すリーナを抱き寄せた。ふわりとした温もりも、柔らかい花の香りも全てが愛おしくてたまらない。
 セティと同じ色の長い髪をそっと撫でた。二人、見つめ合う。
 大切な宝物に触れるように、アツキは彼女の唇を優しくふさいだ。
 言いようのない幸せが体中を満たす。彼女を抱いている腕に力が入った。
「アツ……」
 彼の熱い唇が彼女を求める。彼女は彼の首を抱きそれに応えた。
 もう二度と、盗みを働いたりしない。
 悲しみも憎しみも越えていける。君となら。

 熱く口づけを交わす二人は、帰って来たものの中に入れず、静かに立ち去る部屋の主の存在に気がつかなかった。