「ほら、黒崎ってあんまり、そういうミーハーな話題に興味なさそうだったから」
なんだ、そういう意味か。
がっかりしている自分に気づき、さらにがっかりした。
ひそかな期待は、潜伏し身を潜めていただけで
けっして私の中から消えたわけではなかったのだ。
彼は左腕の時計をちらりと見て、「もうすぐ開店だな」と言った。
そして少し迷うように沈黙したあと、まぶしそうに私を見た。
「お前は……彼氏できた?」
なぜだろう、この質問をされることを、予感していたような気がする。
「……はい」
そして、自分がどう答えるのかも。
「付き合ってる人がいます。
2年前から」
嘘は、彼を欺くためではなく
こう答えなければ、近づくことすら許されないと思ったから。