「――もしもし、聡?」


卒業式を明日に控えた夜。

私は部屋に飾られている濃紺の袴を見つめながら、聡の携帯に電話した。


『どうした?』

「……いま大丈夫?」

『あぁ、大丈夫だよ』


誠司と別れたことを報告するために電話したのに、私の口はその目的を伝えようとしない。


あなたと出会ったその日に身体を許した私は、彼氏と別れました。

フィレンツェで出会ってから、私の頭のなかに存在していたのはあなたでした。


そのことを伝えたら、聡はどう思うのだろう。