「おかえりなさい、誠司さん」 「ただいま」 息子の帰りに、お母さんは満面の笑みを浮かべる。 「ご無沙汰しています、おばさん」 誠司の隣で、私は精一杯の笑みを取り繕う。 「あら、依子さん。お久しぶりね」 「えぇ。お伺いしようと思っていたのに、なかなか機会がなくて」 誠司と別れたら、この人との接点もなくなるし、それにもう二度と会うこともないだろう。 息苦しい空気は、誠司の気持ちなど汲み取ることもせず、自分自身の我侭な欲望だけを植え付け始める。 「イタリアに行かれたんですってね」