「――そうだね」
私は靴を履いている誠司の背中に向かってポツリと呟くと、クローゼットからコートを引っ張り出し、羽織った。
卒業後の就職先は、一流企業と言われている月島グループ。
聡が言っていた『凄腕の女社長』とは、誠司のお母さんだ。
月島の創業者は誠司のお母さんの曽祖父で、お父さんは月島家に婿入りした形になっていた。
穏やかな性格の誠司のお父さんは企業のトップになることを嫌い、グループの傘下にある会社の営業部長に留まっている。
誠司もお父さんと同じ営業部の社員。でもいずれ、長男でもある誠司はお母さんの後を継ぐことになるだろう。
そして、私が月島グループに内定を貰ったのも、いわばコネのようなものだった。
将来、月島家の嫁になるのだから。ただ、それだけの理由。


