朝食を終えたあと、私と聡はどこに出掛けるわけでもなく、部屋のなかで過ごした。
恋人同士のように寄り添い、自然な流れで肌を重ねあう。
バッグの中に入れていた携帯電話が震える音を耳にしたけれど、私がそれを手にすることはなかった。
聡もまた、その音に気づき一瞬だけ私のバッグを見たけれど、なにも言わずに私を抱きしめた。
――分からない。
誠司と自分。どちらが好きかと尋ねた聡に私が返した言葉。
それでも聡は、曖昧な返事をした私にベッドのなかで囁く。
「俺はフィレンツェで会う前から、あのカフェで依子だけを見ていたから――」
ここまで言われても、私は自分の気持ちを打ち明けられず、抱きしめられたその腕にしがみつくことしかできなかった。


