手にしていたティーカップを落としそうになった。

頼りなくカップを持つ右手は次第に震え始め、私はそれを抑えるようにして左手を添え、ソーサーにゆっくりと置いた。


「――ごめん。私、本当は付き合っている人がいるの」


誠司の存在を否定することまではできなかった。

正直に打ち明けた瞬間、息苦しい沈黙が私と聡を包み込む。

聡は私から視線を外すことはなく、ただ無言で、吸い込まれるような瞳でじっと見つめる。


「俺とその彼氏、どっちが好き?」

「……えっ……」


――答えは、もうとっくに出ていた。

フィレンツェで別れ、日本に帰国した頃から、私の頭のなかには聡が絶えず存在していた。

聡に身を委ねたのだって、軽い気持ちなんかじゃない。

そこには、私の本当の気持ちがあったから……――。