聡のことを知りたがっているくせに、私は何ひとつとして自分のことを話していなかった。
ギブアンドテイク。それなら今度は、私の番だ。
「T女子大を今度卒業するの。就職先は月島グループ」
「へぇ。月島って一流企業だろ。確か、凄腕の女社長がやってるって……」
「――うん……」
凄腕の女社長が切り盛りしている、一部上場企業の月島グループ。
そんなところに内定が決まったのは、奇跡でもなんでもない……――。
「……ひとつ、訊いてもいい?」
きれいにバターを塗ったバゲットをかじることもなく、お皿の上に静かに置いたあと、聡は頬杖をついて私をじっと見た。
「なに?」
「すごく重要なこと。依子、彼氏はいるの?」


