聡のマンションを出ると、三月の冷たい早朝の空気が私を包み込む。

道路に沿って規則正しく植えられている桜の木は、今にでも開花しそうなほどにふっくらとした蕾をつけている。

きんと冷え切った空気に晒された私は、昨晩のことを思い出す。


聡と会ったのはフィレンツェに続いて二度目。

たった二度しか会っていないのに、私はこうして朝帰りをしている。

惹かれているから。ただそれだけの理由で、私はこんなにも簡単に身体を許すような女だったのだろうか。


今夜ぐらい、と言った聡は、私が望んだとおりまた会う約束をしてくれた。

それは素直に嬉しい。

でも、その約束の裏には、いったいどんな気持ちが隠されているんだろう。


性の捌け口としての約束なのか。

それとも、身体の関係など抜きにして純粋に私と過ごしたいだけなのか。